剣術道場免許皆伝の少女桜花。

彼女は剣術の師、黒我の使いを頼まれ、町に出た。

横には幼なじみで自分と同じ実力を持つ落葉とともに使いをこなそうとしていた。

これから自分達に起きる出来事など分かるはずも無く

二人はゆっくり、目的地に歩いていっていた。

 


妖刀村正
        桜花の妖刀物語1 疾風の陣 中編


 

そして二人は師に頼まれた目的地にたどり着く。

どうやらココは商人の家のようだ。

かなりの大きさである。

巨大な屋敷を見上げ、桜花は少したじろぎながら落葉に聞いた。

「…落葉、ここよね?」
心配そうに巨大な屋敷を見上げながら落葉にたずねる。

「ここで、間違いないはずだよ、貰った紙はココ見たいだし」
落葉は懐からだした紙を見て、屋敷を見上げる。

「…じゃあ、行きましょうか」
桜花は大きな屋敷の戸を開け、中に入り叫んだ。

「すみませんー! 黒我からの使いですがだれか…んっ? 落葉」
そこで、二人は眉根を寄せて頷きあう

「わかってる。コレは、血の匂いだね」
そういい、落葉は腰の刀を少し持ち上げる。

「行きましょう。落葉、何か他の刀持ってないの?」
桜花はその落葉の仕種を見て自分の武器が無いことを思い出した。

「小太刀ぐらいならあるけど、これでいいかい?」

落葉は腰から刃渡り五十センチ弱の小刀を差し出した。

「何も無いよりは良いわね。借りるわよコレ」

桜花はそれを受け取り、左手で握り屋敷の中に入った。

中には人の気配はなかった、屋敷の部屋を一つひとつ調べていく。

どの部屋にも、人一人見つけることはできなかった。

だが、中に進めば進むほど、血の匂いは強くなっていく。

そうする間に屋敷がどんなに大きくても、数十分で部屋はすべて調べることはできた。

「誰もいないのかな? でも、コレだけ大きい屋敷なら、一人ぐらいいてもいいもんだけど」

桜花は部屋にある掛け軸をめくりながら言う。

そこに落葉が腕を組みながらぐるりと周りを見渡す。

「…おかしい」

「なにが?」
桜花がめくった掛け軸の向こうにはただの壁しかなかった。
隠し通路でもないかと思っていた桜花は少し落胆しながら落葉の話を聞く。

「僕達を呼び寄せて置いて、誰もいないなんて、しかもこの血の匂い、おかしすぎる、それに」

「それに?」

「春香さんがいない、御師様は先に向かったといっていた。
 さすがに足の遅い春香さんでも一戦した後の僕達より遅いなんてありえない」

二人は顔を見合わせ少し考え込み、まだ探していない中庭を探そうと襖を開けたとき

二人が見たものは


「人!? あなた、大丈夫」

中庭の木に背中を預けて座り込んでいる傷だらけの男だった。
駆け寄り男を見下ろす。
薄汚れている白い衣服が半分以上赤く染まっている。

「…息をしていない、もう無理だ。それにしてもこの傷は刀傷?」

二人は顔を見合わせ叫び中庭の中を走った。

「春香(さん)が危ない!!」

二人は、血の匂いが充満するばか広い中庭を駆けた。

中庭は随分広い、屋敷より広いのは確かだ。

そこには、木々が生い茂っており、ちょっとした森と大差ないのだ。

奥に入っていけば行くほど血の匂いは強くなり

周りの木には血が目立ちだした、木の陰にはズタズタに切り刻まれた男が何人もいる。

たぶん、この屋敷の者なのだろう、中には女の姿も見えた。

女は男よりさらにズタズタに切り刻まれている。どの人間も、生きてはいないようだった。

地には刀に薙刀など様々な武器が突き刺さっており、どれも血がすべてついていた。

「うっ!」

「…………」

桜花はこの光景を見て口元を押さえる。

胃の中のものが逆流してくる。桜花は何とか口から出すのをこらえ

空を見上げて深呼吸をした。

落葉は無表情で周りを見渡していた。一心不乱にこの状況を把握しようとしているのだろう。

落葉はある一方向に道を定め走り出した。どうにかして犯人の方向を導き出したのだろう。

腰にある刀を軽く押さえ、落葉は木の陰に隠れた。

桜花は落葉から借りた小太刀を抜き、落葉の横の木に身を潜めた。

木の向こう側には刀を持った男がもう死んでいるであろう男を何度も切りつけていた。

あの男がこの屋敷の人々を切り殺したのはほぼ間違いないだろう。

「落葉、どうするの?」

「まずは、状況の説明をさせるべきだね。取り押さえるから、桜花はココで待ってて」

落葉は刀を二割ほど抜き、木から飛び出した。

「動くな! 貴様何者だ」

腰を落とし、相手を見据える落葉。右手は刀を握り、左手は鞘を押さえ居合の構えをしている。

男は刀で死人を切るのをやめ、血糊のついた刀を一振りする。

血が木々に飛び散り赤く染める、男が落葉の方に体を向ける。

落葉は男を見て眉根を寄せた。

「あなた、いったい…」

男は全身刀傷だらけで、明らかに人間の生きていられる状態ではなかった。

そしてさらに驚いたのは、白目を剥き、笑っていることだった。

白目は赤く充血していてまるで目に血の涙が溜まっているようだった。

利き手以外は神経が繋がってないのか、だらりと垂れている。

男は、ぼそぼそと声を出した。

 

「人、見つけた、ククク切り殺す…」

「なっ!?」

そこからの男の動きは迅速だった、地をはうように駆け出し

右手だけで持った刀を思い切り、横一文字に振りぬく。

落葉は後ろに飛びのき、難なく刀をかわす

男は刀を振り抜いた後、バランスを崩しぐるりと回り仰向けにこけた。

足はもう使うことはできなさそうだ、先ほどの踏み込みで足の神経はすべて使えなくなったと見て間違いない。
間接もあらぬ方向に捻じ曲がっている。

男は体を反転さしてうつ伏せになる。
見るからに神経や関節、骨はボロボロになっているのに、この男は呻き声一つ上げない
男は立ち上がろうと刀を杖の代わりにして立ち上がろうとするがバランスを崩し前に突っ伏す。

刀だけが地に刺さったままになる。

男はもがき何度も立ち上がろうとしたが、結局立ち上がることはできなかった。

落葉はこけて立ち上がることのできない男の背後に立ち、刀を突きつけた。

「もう一度聞く、貴様は誰だ」

「ク、クク、みな、殺し、だ…」

男はその言葉を最後に動くことは無くなった。

落葉は刀を鞘に戻し、辺りを見渡した。

周りには数十人の死人が転がっている、各々みな武器を手にしている。

この男を撃退しようとして返り討ちに遭った屋敷の人々だろう。

周りから来る死臭に眉根を寄せていると、桜花が木の影から出てきた。

桜花はなるべく周りを見ないようにしているのか、落葉一点を見ている。

手には鞘にしまわれた小太刀を握っていた。

「なにか、わかったの?」

桜花は心配そうにたずねる

「いや、勝手に死んじゃった。この人、いや、初めから死んでたのかもね」

「どうゆうこと?」

「いや、この人初めから生きてなかったみたいなんだ、まるで何かに操られてるみたいだったね」

「陰陽の類かしら?」

「わからない、でもその可能性が一番高いだろうね、普通の人間ならココまで戦えない」

落葉は周りを見渡しながら言う。

それにつられて周りを見渡した桜花が顔をしかめる。

「桜花、気持ち悪がってる場合じゃないよ。コレだけの人数をこの人だけで倒したとは限らないからね、
 二人はいないと思うけど、どちらにしても春香さんがいない」

「そうね、通ってきた道にはいなかったみたいだから、大丈夫よね」

桜花は自分を納得させる言葉をいい、落葉に同意を受けようと落葉を見つめた。
落葉は軽く俯き、移動を開始した。

二人は広い庭を走りまわった。

そして辿り着いたのは一戸の建物、コレは多分、蔵だと思われる物だ。

留め金は途中で引きちぎれてなくなっていた。

誰かが無理やり開けたのだろう、金具は古くなって錆びていた。

(錆びている金具が引きちぎれて転がっている。ということは、誰かいる?)

桜花はもう一度小太刀を抜いた。

今度は桜花が落葉を制止させ、桜花は蔵の壁に背を付けたままゆっくり戸を押し開けた。

顔だけ中を覗いて見る。中には立てかけられた槍、薙刀、一纏めにされている刀など

桜花は周りを気にしながら中に入っていく、木造で作られた床が

ギィと軋む音が鳴る。中は光が差し込み埃が舞っているのが見える。

桜花は危険と分かっていながらも、叫んだ。

小太刀でも多少の相手ならねじ伏せる自信があったからだ。

「誰かいるの! いたら出て来て、怪しい物じゃないから」

この叫びは虚空に流れた、静まり返る室内。と

「やあー!」

蔵の骨組の上に隠れていたのだろう、

薙刀を持った十代半ば下ほどの少女が飛び降り薙刀を振り下ろした。

桜花は振り下ろされる薙刀を小太刀の腹で受け止め少し刃を斜めに傾け軽くあしらう。

薙刀は桜花のすぐ真横にめり込む、それと同時に少女も床に倒れる。

「ふぎゃ、む〜 いった〜い、鼻、打っちゃった」

少しはれた鼻を擦りながら少女は上を見上げた。

見上げた少女の顔が恐怖に引きつる。

後ずさりながら、桜花から離れる少女。

「こ、殺さないで」

つづらが背中に当たりさがれなくなった所で、涙目になり少女は懇願した。

桜花はにやりと笑い、無言でゆっくり少女との距離を詰めた。

一歩、一歩進むごとに、少女の顔が恐怖に引きつる

後数歩の所で少女は声も出せず首だけを振り、泣き出した。

桜花は舌をなめずり、不気味に笑い、小太刀を振り上げた。

少女は目を強くつむり、見を竦めた。

「桜花、からかうのはそれぐらいでいいんじゃないか?」

「ふぇ?」

少女は涙目で目の前に立っている桜花を見る。

桜花は小太刀をしまい、笑顔で自分を見下ろしていた。

「どう? 怖かった?」

桜花の言っていることが分からない少女、いきなりの事で何がなんだかわからなくなっている。

「お〜い、大丈夫?」

少女の顔の前で手を振る、少女はハッと目を開き、桜花と目を合わせる。

少女は口をパクパクと動かして、桜花を指差す。

桜花は後ろを振り返る、後ろには落葉がいた。

「…落葉のこと知ってるの?」

「ちがーう!!」

「きゃ!」

少女は物凄いスピードで立ち上がり、叫んだ。

いきなり少女が立ち上がったので桜花は尻餅をついてしまった。

見上げると見下ろすの関係が逆になった。

「なんなんですか、あなた達は、私は怖くて折角勇気を出して攻撃を仕掛けたのにあっさりかわされて
 それでいてからかわれて、私、死ぬかと思いました、でも死んでない、じゃああなた達は誰?」

少女の体に合わない肺活量で捲くし立てられる桜花

少女も頭が回ってきたのか、目の前にいる二人が危険でないことが分かってきたようだ。

「キミ、一体何があったんだい? もう生存者はキミだけ見たいだし、状況を話してくれないかい」

少女が落ち着いてきたようなので落葉は気になっていた質問をぶつけた。

少女はまた、泣き顔になる瞳いっぱいに涙を溜めている。

そしてゆっくり話し出した。

「領主様が、黒我様に渡す者があるから、ここにある刀を持ってきてくれっていわれてたんです
 私は頼まれた刀をココから領主様に持っていったんです。
 でも、領主様が刀を抜いたとたんに人が代わったように人を切り始めて、
 私、怖くなって逃げ出してきたんです。ずっとココに隠れていました
 いつもはあんなにおやさしい領主様が何で突然…」

少女は泣き崩れてしまった、桜花はその少女を優しく抱きしめてよしよしと背中を撫でてやる。

首だけを回し落葉を見てみると、落葉は腕組をして何かを考えている。

「落葉、やっぱり陰陽の類いかしら」

「わからない、自然を操る陰陽ならよく聞くけど、人を操るのはね
 しかも、道具を持ったら発動する物は見たことも聞いた事もない
 でもさっきの奴、アレは異常だった、確かに操られてるとしか言いようがないね」

そして落葉はまた腕を句ミ考え込む。
桜花はあたりを見回し少女と一緒に立ち上がる。

「とにかくココから離れましょう、気分が悪いわココ、立てる?」

「大丈夫、歩ける」

桜花と少女が蔵を出る、落葉は腕組したまま動かない。

桜花は声をかけようと思ったのだが、それをやめ少女と歩き屋敷を後にした。

途中少女が、桜花を見上げていたが、桜花は笑顔でそれに返した。


落葉は二人が立ち去ったあと、もう一度屋敷の中を探り周った。

ある物を見つけた。落葉が手にしたのは一本の鞘

かなり長い、鞘だけで、落葉の脇ほどまである。

落葉は先ほどの狂った男が死んだ場所にもう一度足を向けた。

そこはいまだに先ほどと変わりはなく、人の死体が転がっていた。

だが、落葉がそこで気になった物は、先ほどの男が使っていた地に刺さったままの刀。

さっきは気付かなかったが、この刀はかなり長刀だった。

男も良く見るとかなりの長身だった、少女が言うにはこの男は領主のようだが

今となってはどうでもいいことかもしれない。

「これが、ココの領主を操りその領主が御師様に渡すつもりだった刀か」

刀を見やる。刀は地に刺さっているものの落葉の胸の辺りにつばがある。

落葉は徐に右手で刀を掴んだ。

その瞬間、落葉は刀を掴んだまま地に膝を突き、左手で顔を抑える。

(うっ! なんだ、頭に何か聞こえてくる)

聞こえてきたのは男の低い声、聞こえてるというよりは聞かされているといった方が良いかもしれない
頭に直接、流れ込んでくる声、それを止める術は何一つ無かった。
耳をふさぐことも、大声を出すことも、何もかも意味をなさなかった。

 

 

 

汝、人を殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ…すべて殺せ!!)

 

 

 

(やめろ! やめろ! やめろぉ!!)

叫んでいるが声は全く出ていない、気がついたときは周りは闇に囲まれていた。
周りには何一つ無い、自分ひとりが闇の中にいるようだ。
なおも、不快な男の声は聞こえてくる。

(殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、憎い者を殺せ、邪魔なものを殺せ、皆殺せ!!)

(黙れ、僕は誰も殺さない、誰も憎くない)

(お前は殺す、最愛の女を、お前は確実に残忍な殺し方で自分の恋焦がれる女を殺す)

(僕が桜花を、殺す? 僕は桜花を傷つけたりはしない)

(お前は殺す、ククク、刀を掴んだ貴様には逃れる術などない
 この村正の呪いから逃れることなどできん。
 そろそろ、お前も自我が保てなくなる、先ほどの男のようにな)

(…桜花、自分でなんとかしてね。たとえ僕を殺すことになっても)

(なかなか、しぶとい奴だったな、さあ、狩りの始まりだ)

無言で立ち上がる落葉、刀を引き抜き鞘に収める。

その落葉の瞳は赤く血の色に染まっていた。

「…桜花を殺さなきゃ……」

一言、それだけをいい、落葉は死体を足蹴にしながら屋敷から出て行った。

 


あとがき
どうも、ネガです。
中編ということですが、誰か読んでいる方いらっしゃるのでしょうか(汗)
ただ一言、『読んだ』とか『面白かった』などでもいいので
掲示板もしくは私にメールを送ってください。
『面白くない』とかでも良いですから何か反応を下さい(泣)
反応が無いのは悲しいので(切実)
では、待ってます〜


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