刀に魅せられてしまった落葉、彼は刀の呪いに従い
愛する者、桜花を殺すために呪いの長刀『村正』を携え屋敷を出た。
「桜花、お前は俺が必ず……殺す」
落葉は自分が何を言っているか分かっていなかった。
ただ一つ分かっていることは、コレは自分の意志ではないということ。
(桜花、危険だと思えば構わず殺せば良い。僕はキミを殺したくない)
頭で考えていながらも落葉の体は真っ直ぐ桜花が向かったであろう師の道場に向かっていた。
その頃、桜花は落葉より先に道場についたところだった。
道場は稽古も終わり門下生達は各自、帰っていったようだ。
道場は静かでいつも気合の掛け声がうるさく感じるのが嘘みたいだ。
とりあえず桜花は少女と一緒に自分の部屋に戻ろうとした時、奥から雑巾を持った女が現れた。
女は桜花に気付き、パタパタと小走りで近づいてきた。
「桜花ちゃん、どうしたの、その子は」
「春香! 何処行ってたのよ、心配してたんだから、先に屋敷に行ってたんじゃないの」
「それが私、道に迷ってしまって父上に道をお尋ねしようとしたらもう道場にはいなくて、
仕方ないので掃除をと」
「はあ、そうなの、ならいいわ、それにしても御師匠いないの? 困ったわね」
「えっと、なにがあったんですか?」
少女は桜花と春香の間で二人の顔を見ている。
「えっと、話すと長いんだけど、とりあえず緊急事態なの」
「領主様がおかしくなっちゃたの…」
少女が泣きそうな声で言う。
春香はそんな少女を腰を落とし、優しく抱きしめてやる。
少女は春香の胸の中でしゃくりをあげている。
そんなとき、汗だくになった門下生が走ってきた。
どうやら桜花を探し回っていたらしい、桜花を見つけたたとたん走りよってきた。
「どうしたの、そんなに焦って」
「落葉が、落葉が長刀を持って暴れてます、俺達じゃ歯が立たない、桜花さんなんとかしてください」
「落葉が!? アイツがそんな事するわけないじゃない!」
「でも、現にもうかなりの門下生が切られています、幸い誰も死んではいないですが
このままじゃ、いつ死人が出てもおかしくありません。あいつおかしくなっちまったんだ。
まるで何かに操られてるみたいに黙々と表情一つ変えねえで切っ手やがる」
門下生は一度にいっぱい言ったので何どか深呼吸して呼吸を整える。
「桜花さん、お願いします!」
桜花はさきほど門下生が言ったことを考えていた。
(まるで操られているように? 落葉まさか)
「…春香、私の刀、持ってきて」
「桜花ちゃん…」
「先に行ってるわ。刀、お願いね」
春香はパタパタと桜花の刀を取りに走っていた。
桜花は門下生から落葉の場所を聞き出し、走った。
聞いていた場所は道場の近くだったのだが落葉がいた場所は
道場の庭、どうやら、少しずつ進んできたようだ。
落葉は真剣を持った門下生に囲まれている。
桜花に気付いた落葉は笑顔で桜花の方を向いた。
そこで桜花は戦慄した。落葉の目は赤く染まっており
その目には何の感情も感じ取ることはできなかった。その目にあったのは、殺意と虚無
落葉は確かに笑っていた、だが、その目は笑ってはいなく寒気の走るような目を桜花に向け
殺意をみなぎらせていた。
いつもの落葉じゃないのは誰の目にも明らかだった。
さらに、気になったことは、落葉があの刀を持っていたこと。
長い刀身、薄く淡い赤の刃、あの刀には見覚えがあった。
だが、桜花についてきた少女が、体を震わしながら落葉を指差す。
「あ、アレ、領主様の刀」
「やっぱり、落葉は操られてる?」
桜花が見るかぎりでは、雰囲気と瞳の色以外は何ら変わりない。
操られているようにはとても見えなかった。
その時、門下生の一人が落葉に切りかかった。
桜花を気にして隙ができたと思い、襲い掛かったのだろう。
だが、落葉は簡単にかわし、足をかける、顔から地に倒れる門下生
落葉は冷ややかな目で門下生を見下ろし、無言で刀を振り上げた。
竦む門下生、落葉はその門下生を一瞥して刀を振り下ろさなかった。
「お前らを殺すのは、桜花を殺した後だ」
誰にも聞こえないぐらいにボソッと囁く。
桜花を見つめる落葉、その瞳は何かに待ち焦がれる子供のようだった。
桜花と落葉はにらみ合ったまま対峙している。
門下生達も桜花が来たことを確認し道をあける。
桜花と落葉の一直進上には誰もいなくなった。
門下生の動きを気にもせず、二人はにらみ合ったままだ。
そんな時、落葉が喋りだした。
「桜花、俺はお前を……殺す」
「落葉……」
淡々と小さい声であったがはっきりと落葉は言った。
桜花はそんな事を言ってくる幼なじみに愕然とした。
いつも優しかった落葉、それが今、自分を殺すといってきている。
わけがわからなかった、悪い夢だと思いたかったが
今自分が感じている五感は明らかに夢ではなかった。
「冗談でしょ、落葉、ねえ!!」
半分泣きそうになり声を荒げる桜花、多少なりと覚悟の上だったが
この状況に混乱しているようだ。
そんな時、桜花の刀を持った春香がやって来た。
「桜花ちゃん、はい、刀。落葉ちゃん、どうしたの?」
桜花に刀を渡す春香、落葉は春香の問いかけを無視して、春香を睨み据える。
いきなり睨まれた春香は眉根を寄せて何か思いついたようにハッと手を叩いた。
「落葉ちゃん、おなか痛いのね、ちょっとまってて、お薬持ってくるから」
春香は道場の中に走っていった。
「春香、こんな時になんてボケを……」
天然ぶりを発揮した春香にため息をつきながら、落葉を見る。
落葉は踵を浮かし、今にも襲ってきそうだった。
そんな事を思っている矢先に落葉が動いた。
(速い!)
落葉の踏み込みは尋常じゃなく、一秒もしないうちに距離は縮まり
落葉は横一文字の攻撃を見舞った。
長刀は風を切りながら、桜花を襲う、直撃してしまえば最低でも致命傷の一撃だ。
「くっ」
桜花はいきなりの落葉の攻撃を居合抜きで弾く。
鋭い剣線がぶつかる。
甲高い鉄の音がぶつかる音が鳴り響く。
二人は距離を採り睨み合う、そこで桜花が泣きそうな声で叫ぶ。
「しっかりしてよ落葉! ねえ、落葉ってば!!」
「桜花…死ねよ」
桜花の叫びは届くことはなく、落葉は口を吊り上げ笑った。
その笑いは落葉の面影は一つもなく、ただの悪鬼でしかなかった。
桜花はそんな落葉を直視することはできなかった。
そんな桜花の気持ちも知らず落葉は桜花を殺すべく刀を桜花に振るう。
なんとか、刀をかわす、刀のキレはいつもの落葉に及ぶ物ではなかった。
素人ほどではなかったが、免許皆伝の腕を持つ桜花に素人同然の動きだった
「フフフ、早く、早く死ねよ桜花ぁー ヒャーハハハ」
声音が落葉のままなので操られていると分かっていても
桜花を怯ませるには十分だった。
「もういや、やめてよ。落葉……」
刀が迫っても動かない桜花、刀が桜花を切り裂く瞬間に何かが刀を遮った。
それは一本の薙刀、それを持っていたのは春香だった。
突然、桜花は崩れるように膝を付く。
春香はいつもと同じようにおっとりとした表情で言った。
「落葉ちゃん、桜花ちゃんが死んじゃいますよ」
「邪魔をするなぁ!!」
落葉は狙いを桜花から春香に定め襲い掛かった。
春香は落葉の攻撃をヒョイっとかわし、薙刀の木の部分で背中を叩いた。
一回転して大の字に倒れる落葉、だが、
たいしたダメージではなくすぐさま起き上がった。
「落葉ちゃん、なに怒ってるんですか?」
春香は桜花や落葉の師、黒我の娘なので、少なからず剣技を覚えている。
桜花や本来の落葉ほどではないが、春香も十分な強さを持っている。
落葉は春香と対峙して、刀を構えなおす、殺気は桜花の時ほど強くはなかった。
じりじりと円を描きながら移動する春香と落葉、桜花はその二人を悲痛な目で見つめている。
そこで、落葉が動いた、横一文字の一振り
コレは牽制、本当の狙いは春香が受け怯んだ後の唐竹の太刀
春香は横一文字の攻撃を薙刀の腹で受ける。
キィン、膂力は男の落葉の方が強く、後ろに弾かれる春香
そこから追撃の唐竹割り、その攻撃は春香の肩口に決まった。
春香の着物の肩が赤く血で染まっていく。
どさり、と春香は地に倒れた。
「春香! 落葉あんた!!」
急いで駆け寄り倒れた春香を抱き上げる桜花、そして落葉を睨みつける。
落葉は桜花に刀を突きつける、来いと誘っているのだろう。
桜花は春香を門下生の一人に頼み立ち上がった。
「落葉…来なさい、私が切ってあげる」
桜花は刀を構えた。
「本気で、行くから… 奥義、疾風の陣」
顔の高さで横一文字に刀を構える。
数秒目をつむり、ゆっくり目を開く
「黒我流正統剣技継承者、桜花、参る!」
桜花の周りに少しだけ風が流れる。
落葉はさも嬉しそうな顔をして刀を構えた。
「お前を殺せば、俺は好きなだけ人を殺せる、俺の中のうるさいやつが消える」
落葉の鬼気とした声は集中している桜花の耳には入っていなかった。
落葉は刀を鞘に半分ほどしまい、腰を落とす、居合の構えである。
操られて本来の力ではない落葉が居合など満足に使えるかどうかはわからなかったが
桜花にはそんな事は関係なかった。
「壱の陣」
体勢を低く構え、走り下から切り上げる。
それを受け止める落葉、微動だにせず、邪悪な笑みを浮かべながら桜花を見ている。
受け止められたことなど気にせずにすぐに次のモーションに移る。
「二の陣」
今度は唐竹の太刀をした後、弾かれた反動で体を捻り回し切りをする。
さらに、そこから逆に体を回し、斜めに振り下ろす。
「参の陣」
突きの連打が始まる、落葉の顔に余裕がなくなってきた。
だが桜花の攻撃は一度足りとも落葉には当たってはいない
すべて、落葉の持っている刀に集中していた。
「終局の陣」
数歩、飛びのき桜花は刀を鞘にしまい腰を落として走りこんだ。
居合を放つ、右斜めに切り上げすぐ右下から切り上げる、そして左下から切り上げる。
そしてもう一度鞘に刀を戻し、右足を踏み込み腰を捻りながら全体重をかけ刀を振り抜いた。
「たあぁぁぁぁぁー!! 黒我流 奥義、疾風の陣!」
この一連の攻撃はすべて、落葉の刀の一点に注ぎ込まれた。
一点に集中された攻撃により、刀の強度が持たなくなり落葉の刀にひびが入る。
落葉の瞳が黒に戻り、頭を抱え膝を付き、奇声を上げた。
「ギャアァァァァァァァ!!」
「落葉、大丈夫! ねえ」
「あ、アア、アアアアアア…」
落葉の瞳が再度、朱に染まる。
落とした刀を拾い、落葉は構え、桜花を見た。
その瞳は先ほどの殺気は微塵もなくただの虚無、視点が虚ろで
実際、桜花を見ているかどうか分からない。
もう、落葉は死んでしまっているのではないかと不安になる桜花。
そんな桜花を尻目に落葉は急に地を蹴り、刀を桜花に振るった。
先ほどまでの素人の動きではない、明らかにスピード、瞬発力、キレが向上している
(なに!? いったいなんなのよ!!)
桜花は落葉の刀を受けながら泣きそうになった。
(いったい、何でこうなったの? 誰のせい? 私? 落葉? 春香? 御師匠? あの女の子?)
桜花は混乱気味だった、本来のキレを取り戻した落葉の刀捌きは
桜花の衣服を切り刻む。二の腕から少量の血が流れ、手まで伝っている。
桜花に痛みは伝わっていなかった。痛みより状況が混乱しすぎていて
痛みが伝わるより考える方に神経が傾いている。
後退しながら刀を受けていた桜花は石に気付かず足を引っ掛けてしまい尻餅をついた。
落葉はその隙を見逃さず刀を振り下ろした。
刀は桜花に当たらず一歩手前の足元に落ちた。
俯いたまま、落葉がぼそぼそと何かを言っている。
「殺したらダメだ、殺したらダメだ、俺が殺されなきゃいけない」
「落葉!? あんた、正気に…」
桜花が言葉を言い切る前に落葉は刀をもう一度振り上げた。
すぐさま飛びのく桜花、今度は桜花のいた場所に刀は振り下ろされている。
落葉はゆっくり顔を起こし桜花を見やる。
やはり落葉は目の焦点が合っていなく虚ろだった。
さっきと違うのは瞳が薄い緋色なっていたことだ。
(操りが解けてきてるの?)
その答えは見つけることはできなかった桜花。
落葉の刀を受けながらあるひとつの事を心に決めた。
「落葉! 今度こそ本気で行くよ!」
その言葉に落葉が笑ったように見えた。
それを思ったときには落葉は無表情に戻っていた。
刀を構え先手を出したのは桜花だった。
縦、横、斜めなど様々な角度からの桜花の攻撃が落葉に見舞われる
落葉は無表情で刀を受け止める。
ひびが入った部分にさらに割れ、刀の欠片が飛ぶ
落葉と桜花は同時に後ろに下がり刀を横水平に構えた。
「疾風の陣」
「…疾風の太刀」
同時に地を蹴り、横一文字の太刀から桜花は上から切り下ろし
落葉は下から切り上げる。
刀と刀がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。
「壱の陣、疾風」
「…壱の太刀 戒刃」
水平切りを同時に繰り出し、同時に弾く。
「んくぅ! 弐の陣、旋風」
「…弐の太刀、滅刃」
落葉は桜花の太刀をいなしバランスを崩させる。
前のめりになった桜花の後ろに周り背中を切りつけようとする。
桜花は前に飛び転がり刀をかわす。
そしてすぐさま振り返る。
「くっ! 参の陣、烈風」
「…参の太刀、旋刃」
桜花は地を蹴り、低く飛ぶ、そのまま猛烈な突きの連打を見舞った。
その攻撃に落葉は刀を横水平に構え下から振り上げ弾く。
そして二人は下がり刀を鞘に収め腰を落とし地を蹴った。
「コレで決める! 四の陣! 神風!!」
「…四の太刀 皇刃」
桜花は横の居合に対して、落葉の居合は縦の居合だ。
二人の居合がぶつかる。鳴り響く、鉄の甲高い音。
そこで異変が起こった。
落葉の刀が根元から折れたのだ、落葉は前に倒れる。
桜花もそこにへたり込む、その時、落葉が首だけあげ声を出した。
瞳の色も戻り、微かに微笑している。
いつもの落葉だった。
「なんで、僕を切らなかったんだい、桜花」
「なに言ってるの落葉、私の流儀は」
桜花と落葉は同時に言った。
「我、人を切らず」
二人は顔をあわせ微笑する。
落葉は体を転がし大の字になる、そして顔の半分を手で押さえ言った。
「まったく、桜花、キミには恐れ入るよ」
「それはどーも、でも、もう疲れたわ」
桜花も後ろに倒れ大の字になる。
それから、御師様が帰ってきてすごい説教された。
落葉と二人で道場の稽古場の真ん中で正座させれ小一時間お小言を言われつづけたのだ。
そしてそこで聞かされたあの刀の話
あの刀は『村正』と言う刀らしい。
あの刀を作った人の怨念がこもってい人を操るとかなんとか。
だからあの刀を持つと人を殺すようになるそうだ。
あの刀は危険ということで御師匠が道場に保管しておくことになっていたらしいのだが
結果は今の通り、誤って抜いてしまった屋敷の領主は屋敷の人間を切り刻んだ。
あの屋敷の死人は、明日師匠達が供養しに行くらしい。
あと、あの女の子は道場で預かることになったの。
あの子の親は、あの屋敷に住んでいたらしいけど、一緒に領主に切られてしまったみたい。
私の言葉や、落葉の頼みなどで御師匠も納得してくれたみたい。
今はしっかりなじんで、春香と一緒に食事の支度をしてる。
それで私と落葉は今
「はぁ、何でこんなことしなくちゃけないんだろう」
「落葉! 文句言うぐらいならさっさとやる、それにあんたのせいでしょうが」
「わかったよ、さっさと済ませよう」
二人は稽古場を雑巾掛けをしている。
二人とも頭や腕など、包帯だらけになっている。
落葉は雑巾掛けをしながら申し訳なさそうに言った。
「桜花?」
「なに?」
「…ごめんね」
桜花は微笑してから、笑顔で落葉に返した。
「いいわよ、でも、今回ではっきりしたわね、二代目の師範代は私ね」
「な!? なに言ってんだい、アレは公式な試合じゃないじゃないか」
「負けは負けよ、認めなさい」
「アレは、僕であって僕じゃないのは分かってるだろう」
「なに言ってるの、疾風の太刀まで使って来たくせに」
「それは桜花だって一緒だろ、疾風の陣、しかも二回も」
「勝ちは勝ち、あなたは負けたのよ」
桜花は落葉を置いて雑巾掛けを再開した。
「あ、待ってよ桜花、僕は納得いかないからね」
桜花は実際、師範代なんてどうでも良かった。
今この状態が長く続けばいいと思う、落葉と言い合いをして
技を磨きあって、楽しく話して、ちょっとだけ二人で照れたりして
そんな時間がいつまでも続けばいいと思う。
それが無限に続かないと分かっていても無理だとわかっていても、そうありたいと思った。
「落葉?」
「なに、桜花」
桜花は立ち上がり手を後ろに回して恥ずかしそうに言った。
「私ね、落葉の事、好きかもしれない」
「え?」
桜花はそれだけを言って走っていった。
扉を開けたままの稽古場に風がながれる。
落葉は満月の夜を見つめ一言誰もいない空間に言った。
「僕も、昔から…ね」
その言葉を聞いた物は一人足りともいなかった。
「今夜は月が綺麗だ」
落葉は掃除を切り上げ、月を見上げていた。
あとがき
どうも覚えている方いらっしゃるでしょうかネガです。
全く持って反応が無いこのお話ですが、とりあえず終ってしまいました。
もし、もし読んでくださった人がいたらありがとうございます。
この話を見るかぎりでは、私の未熟さが現れていますが
頑張って精進してゆきますので、たまに読んで下されば嬉しいです。
では、読んでくれた人、ありがとうございました。